変形性股関節症の治療方法の代表例として、手術療法が挙げられます。ところが、手術に対して不安を感じる方も多いのではないでしょうか。手術への不安を解消するためには、各手術療法に関する正しい知識を身につけておくことが大切です。
本記事では、変形性股関節症の代表的な手術療法である人工股関節置換術と骨切り術の具体的な方法やメリット・デメリットなどを、わかりやすく解説します。
変形性股関節症とは
変形性股関節症とは、股関節の軟骨がすり減り、関節の変形や痛みを引き起こす病気です。股関節は、骨盤側のくぼみ(臼蓋)と太ももの骨の先端(骨頭)で構成されており、この2つの骨の間にある軟骨が関節の滑らかな動きを可能にしています。しかし、軟骨がすり減ると関節の動きが悪くなり、痛みや可動域の制限を引き起こすのです。

変形性股関節症を起こす原因の7~8割は先天性の臼蓋形成不全で、女性に多く発症しやすい特徴があります。病状が進行すると歩行困難になる場合もあり、日常生活へ支障をきたすこともあります。
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変形性股関節症の診断
変形性股関節症の診断では、まず問診で痛みの場所や生活への影響を確認します。その後、レントゲン検査で股関節の隙間の狭さや骨の変形の有無を調べるのが一般的です。変形性股関節症は、進行度に応じて以下の4段階に分類されます。
- 前期:股関節の間が狭くなり始めるが、骨の変形は軽度。
- 初期:骨硬化や軽度の骨棘(骨がぶつかることでできるトゲ)形成があり、関節の間が部分的に狭くなる。
- 進行期:骨棘や骨嚢胞(骨が痛むことが原因でできる空洞)などが顕著になり、軟骨が一部消失し骨同士がぶつかる。
- 末期:著明な骨棘形成や広い範囲で骨が硬くなるなどの症状があり、関節の間がほぼなくなる。
医師は、問診の内容やレントゲン線による画像所見などから、病気の進行度を確認します。さらに、症状や患者の状況を確認し、治療後の生活なども踏まえて、総合的に治療方針を判断します。
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変形性股関節症の治療法
変形性股関節症の治療は、主に保存療法と手術療法の2つです。症状が軽度な場合は保存療法を行い、進行すると手術療法が必要になります。ここでは、各治療法の内容について解説します。
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保存療法
保存療法とは、手術を行わずに、服薬や食事管理、運動などで症状の改善を試みる治療法です。変形性股関節症で実施することが多い保存療法は、以下のとおりです。
- 体重管理
- 運動療法
- 薬物療法(鎮痛)
変形性股関節症の症状が強くなる要因として、体重の増加が挙げられます。食事や運動を管理して体重を減らすことができれば、関節への負荷が軽くなり、症状が改善する場合もあります。また、痛みを緩和するために鎮痛剤を服用することもあります。
手術療法
変形性股関節症の手術は、保存療法による効果が不十分な場合に検討します。当院で行っている主な手術の方法は、人工股関節置換術と骨切り術です。各手術の特徴は、以下のとおりです。
- 人工股関節置換術:術後の復帰が早く、痛みの軽減と関節機能の改善が期待できる。
- 骨切り術:自分の軟骨を温存できることから、若年層に適している。
手術をする際には、患者の年齢や症状に応じて適切な方法を選択することが大切です。そこで今回は、当院で行っている人工股関節置換術と骨切り術についてご紹介します。
人工股関節置換術(THA)とは
人工股関節置換術(THA)は、術後すぐにリハビリができるほど侵襲が少なく、早期に自宅退院や社会復帰できるのが特徴です。股関節を人工のものに置き換えるため、術後の定期検診と一部姿勢などに気を付けていただくことが大切です。
人工股関節置換術の概要
人工股関節置換術は、痛んだ関節をチタン合金等でできた人工の部品に置き換える手術です。大腿骨と骨盤側のくぼみに、それぞれ人工関節を埋め込み、股関節の機能を再建します。
主に関節の変形や痛みが強い進行期や末期に行われ、術後の痛み軽減や可動域の改善が期待できる手術です。人工関節が丈夫な素材で作られており、現在では25年を超える耐用年数が期待できます。


人工股関節置換術のメリットとデメリット
人工関節置換術は、早期に退院できるメリットがある一方で、人工関節特有のデメリットもあります。人工股関節置換術のメリットとデメリットは、以下のとおりです。
人工股関節置換術のメリット | 人工股関節置換術のデメリット |
・機能回復までの期間が短い ・痛みが緩和されやすい ・高齢でも適用できる | ・耐用年数は長いが、使い方によっては入れ替えが必要な場合もある ・人工関節特有の感染症リスクがある・術後に脱臼する可能性もある |
人工股関節置換術は侵襲が小さいため、手術後の問題が無ければ、早ければ翌日から歩行訓練を開始します。当院では2週間前後で退院をすることが多いです。一方で、40代など比較的若い年代で手術をした場合は、高齢になったタイミングで再手術が必要になる可能性もあります。
人工股関節置換術前後のリハビリ
当院では、術後早期の社会復帰を目指すため、リハビリの内容や人工関節と上手に付き合うための注意事項説明、手術に備えた運動を手術前から行います。事前に説明を行うことで、入院中のリハビリから社会復帰までの流れをスムーズに繋げられます。
人工股関節置換術のリハビリでは、術後の痛みを確認しつつ、翌日から起立や歩行練習を始めるのが一般的です。主に股関節周囲の筋力回復と歩行能力の向上を目指して訓練を行います。また、脱臼を防ぐために、動作指導や生活上の注意点も学びます。とくに問題がなければ、おおむね術後2週間前後で退院することも可能です。
人工関節置換術の早期回復プログラムはこちら
寛骨臼回転骨切り術(RAO)とは
寛骨臼回転骨切り術(RAO)は、人工関節を入れないため、自分の関節を残せるのが特徴です。しかし、侵襲が大きい手術になるため、治療やリハビリが長期化したり、痛みが残ったりする点には注意が必要です。
寛骨臼回転骨切り術の概要
寛骨臼回転骨切り術は、股関節の骨盤側(寛骨臼)を切って回転させる手術です。臼蓋が骨頭をしっかり覆うように調整することで、関節の負担を軽減し、安定性を高めます。人工関節に置換するのではなく、自分の関節を温存できるため、初期の変形性股関節症の方や若い患者に適した手術です。
寛骨臼回転骨切り術のメリットとデメリット
寛骨臼回転骨切り術のメリットは、自分の関節を温存できる点です。一方で、手術の侵襲が大きく、社会復帰までに時間がかかる点は理解しておきましょう。寛骨臼回転骨切り術のメリットとデメリットについては、以下のとおりです。
寛骨臼回転骨切り術のメリット | 寛骨臼回転骨切り術のデメリット |
・自分の関節を温存できる ・脱臼のリスクが低い ・日常生活が制限されない | ・術後の回復に時間がかかる ・痛みが完全に取れない可能性がある ・再手術の可能性もある |
寛骨臼回転骨切り術は、自分の関節を温存できることから、とくに若年層の患者に適用されることがあります。一方で、体重をかけたり動かしたりできるまでには早くても3〜6週間が必要で、そこから徐々に体重をかける量を増やし、全ての体重をかけられるのは術後3〜6ヶ月目になります。術後の復帰までに時間がかかることも理解したうえで、手術を受けるか判断しましょう。
寛骨臼回転骨切り術後のリハビリ
寛骨臼回転骨切り術後には、骨が完全に癒合するまで、手術した脚への荷重が制限されます。そのため、術後のリハビリでは、荷重制限に合わせたトレーニングが必要です。
術後初期は、股関節への過度な荷重を避けつつ、筋力や関節可動域を維持・改善する運動を実施します。その後、荷重制限が解除されるにつれて、徐々に荷重をかけながら、松葉杖を使った歩行訓練などを行います。最終的には、日常生活への復帰に向けて、段階的にリハビリが進められます。
変形性股関節症の手術は専門医に相談しよう
変形性股関節症の保存療法だけで症状が改善できない場合は、手術療法を検討します。しかし、手術を受けることに不安を感じる方も多いでしょう。手術に不安を感じる場合は、まず信頼できる専門医へ相談することが大切です。
はちや整形外科病院では、患者のお悩みに寄り添って治療を進めることを大切にしています。当院で過去に実施した人工股関節置換術(THA)や寛骨臼回転骨切り術(RAO)の実績については、以下のページをご確認ください。変形性股関節症の手術実績が豊富にあるため、不安を抱えている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
はちや整形外科病院の実績
資料提供:人工関節ドットコム