膝関節は人間の体を支えたり、歩く・走る・座るなどの多くの動作に関わる、非常に大切な関節です。
今回は膝関節の痛みの中でも、主に変形性膝関節症についての原因や治療方法をご紹介します。
変形性膝関節症は年齢を重ねると発症しやすく、厚生労働省の調査によると自覚症状を持つ方は1,000万人、自覚症状がなくてもレントゲン検査により変形性膝関節症にかかっていると考えられる方は3,000万人(※)といわれています。
50歳前後から発症することが多く、ピークは70歳前後です。ただし、若い頃に半月板を痛めた場合や部分摘出を行った場合は、さらに若くして変形性膝関節症となります。痛みの性質、部位によってわかるようなものでもありませんので、病院で診察・検査を受けましょう。年を重ねても自分の足で歩けるように、痛みの治し方について変形性膝関節症の症状に対する治療法を中心にご紹介します。
※厚生労働省「介護予防の推進に向けた運動器疾患対策について」より
膝の痛みの治し方として代表的な2つの方法
膝関節の痛みは加齢による軟骨の減少や骨の変形、滑液(関節をスムーズに動かすための順滑液)の貯留などにより生じます。また、自己免疫疾患やスポーツのケガなどにより、若い人にも起こる場合があり、それが年を重ねてから影響する場合があります。
治療法としては、大きく2つの方法があります。
● 保存療法(投薬・リハビリ)
● 手術療法
膝の痛みがある場合は、整形外科を受診し痛みの原因を確認してからご自身にあった治療法を選択するようにしましょう。
ここでは、変形性膝関節症による膝の痛みについて説明いたしますのでご覧ください。
保存療法
投薬
保存療法としては、投薬とリハビリテーションがあります。
まず、投薬については膝関節の状態により下記の2つの期で異なります。
① 炎症期(腫れている・熱を持っている・水が溜まっている)
通常の鎮痛剤の内服や外用薬(湿布や軟膏)を使い、痛みや炎症を和らげます。
② 非炎症期かつ慢性期(熱を持っていない、動かなくても痛い)
神経の損傷や、膝関節の変形やぐらつきにより神経が刺激されて生じる神経障害性疼痛に効果のある薬剤を使用します。
注射をする場合は、注射をする部位が異なります。
① 関節内注射
膝関節に水がたまっていて膝全体的に痛い場合に有効です。数回行うことが一般的です。
② 関節外注射
膝関節に水がたまっておらず、膝の一部分のみが痛い場合に有効です。
注射薬の種類も症状により異なります。
① ヒアルロン酸
膝関節に水がたまっているとき、水を抜いた後に注入します。数回行うことが一般的です。
② ステロイド
炎症が強いときに有効です。通常は一回のみです。
③ PRP(多血小板血漿:たけっしょうばんけっしょう) 療法
ヒアルロン酸で効果不十分な場合(保険適応外)に行います。PRPは再生医療の一種で自身の血液を採取し、成長因子などの必要な成分のみを濃縮して患部に注射をする治療法です。O脚、変形が強い場合は効果が少ないです。
PRP療法とは?
リハビリテーション
リハビリテーションも下記の2種類に分かれます。
① 理学療法士の指導のもと行うリハビリテーション
理学療法士が適切な動作を指導し疼痛などを緩和させます。ストレッチ、筋力トレーニング、動作指導などがあります。
また、電気治療や膝関節を温める物理療法を行う場合もあります。
② セルフトレーニング
慢性期になると理学療法士にやってもらうだけでは回復が不十分になります。自宅でのトレーニングも必要です。
手術療法
膝関節痛に対して行われる手術は
●人工膝関節全置換術(TKA)
●人工膝関節単顆置換術(UKA)
●高位脛骨骨切術(HTO)、または膝関節周囲骨切術 (AKO)
●半月板切除・縫合術
●前十字(または後十字)靭帯再建術
などがあります。
先に述べたように膝関節は人間の体を支え、多くの動作に関わる大切な関節です。手術を行うことで、膝の痛みが軽減するだけでなく、膝関節の動きがスムースになり歩く・立ちあがる等の動作がしやすくなるため、生活の質(QOL)の向上が期待できます。
膝の痛みを改善する2つの手術療法
ここでは変形性膝関節症に対して行われる人工膝関節置換術(TKA:Total Knee Arthroplasty、UKA: Unicompartmental Knee Arthroplasty)を中心にご紹介します。
人工膝関節全置換術(TKA)
TKAは、膝関節を5~10cmほど切開し、傷んだ骨や軟骨、靭帯、半月板を取り除いてコバルトクロミウム、チタン合金などでできた人工の関節(インプラント)に置き換える手術です。軟骨の部分にはポリエチレンを入れ、スムースに動くようにします。人工関節を骨とくっつけるために骨用のセメントを使用する場合があります。
変形が強くて歩行が安定しない、膝が伸びない、曲がらない、それらにより疼痛が強い方が適応です。後十字靭帯を温存する方法(CR型)と、後十字靭帯を切除して挿入する方法(PS型)があります。
PS型は切除した後十字靭帯の代わりに、軟骨側のインプラントについた突起を大腿骨側のインプラントで支えることで靭帯の役割を果たします。
どちらのインプラントを選択するかは、その方の症状や関節の動き方などで医師が選択をします。
手術時間は、1時間~1時間半程度です。
人工膝関節単顆置換術(UKA)
TKAと考え方は同じですが、膝関節の内側のみ、または外側のみが傷んでいる部分を人工の関節に置き換える手術方法です。人工関節の素材はTKAと一緒です。
UKAは膝の内側または外側の傷んでいる側のみの手術となるため、TKAに比べ手術による侵襲が小さくなり、回復も早いことが特徴。また、膝関節の傷んでない部分は残したままの手術となるので、手術後の膝の違和感が少ないことがメリットとして挙げられます。変形(O脚)が軽度で痛みが内側に限定している方が適応です。
手術時間は1時間前後です。
膝の痛みが生じる前にできる予防策
膝の痛みが出ると日常生活に支障が出ることもあります。
適度な運動やストレッチを行うことなどで、変形性膝関節症を予防しましょう。
膝周囲の筋トレ・ストレッチ
膝関節が伸びていない状態では、関節内にある靭帯が緩むことで関節が不安定となり痛みにつながるため、痛みのない範囲で伸ばすこと、身体を支える筋力をつけることが大切です。
特に、太もも前面の筋肉やお尻の筋力を強化することで歩行時の膝関節のスムーズ性の改善、姿勢の改善に加え、膝の痛みの予防になります。
ふくらはぎのストレッチ
1.タオルをつま先へかけ、身体を前に倒す
この動作を15秒キープ、3~5回 2~3セット繰り返します。
太ももの筋肉の運動
1.椅子に深く座り、膝を伸ばす ※太ももが椅子から浮かないように注意しましょう。
この動作を10回 2~3セット繰り返します。
お尻の筋肉の運動
1.仰向けに寝て、両膝を曲げる
2.お尻の筋肉を意識してお尻を持ち上げる
この動作を5秒キープ、10回 2~3セット繰り返します。
体重管理・減量
膝関節は人間の体を支える働きをするため、大きな負担がかかります。
歩行時は体重の3倍、階段の昇り降りでは体重の4倍の負担が膝関節にかかると言われています。
例えば10kg体重が増えたとすると、歩行時は30kg分の負担がかかることになります。
膝関節に負担がかかると歩くことや動くことがおっくうになり、さらなる体重の増加や活動量の減少により膝関節痛を招きやすくする可能性もあります。適度にウォーキングや運動、ストレッチを取り入れ、体重管理を心掛けてください。
また、10%以上の体重減少をした方は、膝の痛みと膝関節の機能改善がみられるという報告もあります。
膝に過度な負担がかからない生活
膝関節痛を予防するには、日常生活の見直しも重要です。
床に正座またはあぐらをかいて座っている方は椅子を使うようにする、寝るときは布団からベッドにするなど洋式の生活に切り替えると膝への負担が軽減できます。
また、なるべく重いものを持たない、階段の昇り降りの際には手すりを使用する、痛みがあるときには膝を温めるようにするなど、早めの対応を心掛けてください。
ウォーキングや運動については痛みのあるときに無理に行わず、適度な範囲で行うようにしましょう。
膝の痛みの治し方を把握し、適切な治療を選択しよう
人間の体を支え、歩く・走る・座るなど動作に関わる膝関節に痛みが出ると、日常生活に支障をきたす場合があります。
一度傷んだ軟骨や骨が自然に元に戻ることはありませんので、適度なウォーキング、運動や生活改善で痛みが出ないように心がけることが大切です。
もし痛みが出てしまったら、早めに整形外科を受診しましょう。
はちや整形外科病院では変形性膝関節症の患者さんに対し、2023年は59件のTKA、32件のUKAの手術を行いました。
膝関節の痛みや違和感でお悩みの方は、ぜひご相談ください。