変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減ることで痛みや可動域の制限が生じる疾患です。特に中高年の女性に多くみられ、放置すると歩行が困難になることもあります。
痛みや歩行障害を改善するためには、早期の治療や手術が重要です。この記事では、変形性股関節症の症状や原因、治療法について詳しく解説します。
なお、「はちや整形外科病院」では、変形性股関節症をはじめとした整形外科関連の手術を年間1,000件以上行っています。ぜひお気軽にご相談ください。
変形性股関節症とは?
変形性股関節症は、股関節を構成する骨や関節軟骨に不具合が生じ、関節軟骨の減少や骨の変形を来す疾患です。
起こりやすい年齢は40〜50歳と言われており、特に50歳以上の方に股関節の痛みをはじめとするさまざまな症状がみられます。
有病率(ある時点でその病気を持っている人の割合)は男性が1.0〜4.3%、女性が2.0〜7.5%で、女性に多い傾向があります。
加齢や先天的な関節の形態異常が主な原因とされており、進行を抑えるためには、早期の診断と適切な治療が重要です。
変形性股関節症の症状
変形性股関節症では、主に以下のような症状が見られます。
- 長時間立っていたり歩行したりすると股関節が痛くなる
- 立ち座りや階段の上り下りで痛みを感じる
- 足の爪切りがしづらくなる
- 関節の変形で足の長さが変わる
長時間立っていたり歩行したりすると股関節が痛くなる
変形性股関節症の主な症状は、歩行時の股関節痛です。
長時間立つことや歩くことで股関節に負荷がかかり、股関節に痛みが出たり重だるくなったりします。変形性股関節症の痛みでよくあるケースは以下のとおりです。
- 歩いていると股関節の前側(鼠径部)が痛くなる
- 長時間立っていると股関節の側面からお尻にかけて痛い
- ひどくなると太ももの前の方まで痛みが出る
変形した関節に荷重がかかることで炎症が生じ、痛みを引き起こします。
立ち座りや階段の上り下りで痛みを感じる
立ち座りや階段の上り下りなど、「股関節を曲げたとき」に生じる痛みも、変形性股関節症の特徴的な症状です。よくある症状のケースは以下のとおりです。
- 歩いているときは平気だけど、立ち上がりや階段を上るときだけ痛い
- 長時間座っていた後に、動き始めるときだけ股関節の前側が痛い
- 座り続けていると股関節の前側が痛くなってくる
立ち座りや階段の上り下りなどは股関節に体重以上の負荷がかかるだけでなく、曲げたときに加わる関節への負荷によっても痛みが生じます。
症状がひどくなってくると、座っていたり寝ていたりするだけでも痛みが生じる(安静時痛)こともあります。
足の爪切りがしづらくなる
足の爪切りなど、生活で必要な動作でも痛くなるケースがあります。
足の爪切りをするときのように、股関節を大きく曲げると、前側や側面に痛みが生じます。
また、足を組んだり、靴下を脱ぎ履きしたりする際も同様で、股関節を曲げる・体を前傾させることに伴う痛みが特徴です。
関節の変形で足の長さが変わる
変形性股関節症で股関節の変形が進んでいくと、足の長さが変わってしまいます。その結果、歩く際に片足を引きずるような歩き方(跛行)になってしまいます。具体例は以下のとおりです。
- 歩くときに左右のリズムが違う
- 上下に動いたり、左右に傾いたりする
また、足の長さの違いや可動域の制限をカバーしようとした結果、腰に負担がかかり痛みやしびれが生じることもあります。変形性股関節症と併発しやすい「腰の痛み」や「足のしびれ」については、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひこちらも参考にしてみてください。
脊柱管狭窄症の原因とは?代表的な治療方法について解説
変形性股関節症の原因
変形性股関節症が生じる原因として、以下のようなものが挙げられます。
- 臼蓋(寛骨臼)形成不全
- 重量物作業の職業
- 発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)
変形性股関節症以外でも、股関節に痛みが生じる病気は存在します。詳しく知りたい方は、以下の記事で解説しているので、ぜひこちらも参考にしてみてください。
股関節の痛みの原因とは?5つの原因疾患や初期症状・注意点を解説
臼蓋(寛骨臼)形成不全
臼蓋形成不全とは、股関節の屋根にあたる「臼蓋」が通常よりも浅く、大腿骨の付け根である「骨頭」を覆う部分が少ない状態です。
臼蓋形成不全は股関節の安定性を損ない、将来的に変形性股関節症を引き起こす可能性があります。また、通常の股関節よりも荷重が1点に集中してしまい、軟骨が傷みやすくなります。
臼蓋形成不全があることで、すぐに股関節の痛みが生じるわけではありません。加齢や過負荷などの要因が相まって、痛みにつながるケースが多いです。
発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)
発育性股関節形成不全は、出生時に股関節の脱臼が見られる状態を指します。
生後3か月女児 左股関節脱臼
有病率の男女比は1:5〜9と女児に多くみられ、お尻や足が先になって生まれてくる「骨盤位分娩」で生じることが多いです。
発育性股関節形成不全は乳児検診などで発見され、装具治療や手術治療が行われます。幼少期に手術や装具療法を実施していても、時間とともに痛みが出て、臼蓋形成不全や変形性股関節症の原因となります。
重量物作業の職業
稀に、長期的に重量物を取り扱う作業によっても、変形性股関節症を発症します。
重量物を取り扱う配達や引越しなどに携わる職業では、変形性股関節症の発症に関わる危険因子となります。男性の場合は物の運びや立ち座りの多い配送関連、女性では子どもを持ち上げる保育士、ほかにも介護士のような職業に多い傾向です。
『変形性股関節症ガイドライン』でも、過重負荷を増大させるような重量物を持つ作業(1日25㎏以上を持ち上げる作業)は、股関節症の発症のリスクファクターとされています。
その他にも長時間立って仕事をしなければならない美容師や販売員なども注意が必要です。
変形性股関節症の治療方法
変形性股関節症の治療方法は、主に以下の2つが挙げられます。
- 保存療法
- 手術療法
保存療法
保存療法で行うのは、主に以下の3つです。
- 運動療法
- 物理療法
- 保存療法
運動療法
運動療法は、股関節を含めてさまざまな関節や身体全体に対して適切な運動を習得することを目的に実施します。
進行を遅らすためだけでなく、手術が決まった患者様も、手術後の回復がスムーズにいくように、事前にリハビリを行います。
運動療法では、おもにお尻の横の筋肉(中殿筋)や股関節周囲の筋肉をトレーニングで鍛えることが大切です。
引用:公益社団法人 日本理学療法士協会
また、座ったまま行える運動に、ジグリング(貧乏ゆすり)もあります。
自分でも行えるストレッチやトレーニングは、以下の記事でも解説しているので、参考にしてみてください。
股関節の痛みの治し方は何がある?治療方法や効果的な運動・ストレッチを解説
適した運動やトレーニング方法は、痛みの出方や身体の状態によって異なります。痛みが出ている、疑いのある症状があると言った場合は、まず近くの医療機関を受診しましょう。
物理療法
物理療法は、循環動態を改善し、むくみや痛みを軽減させることを目的として行います。
温熱療法(ホットパック)や光線 (レーザーなど)、電気(低周波、干渉波など)などの物理的手段を用いた治療方法が主流です。
ただし、物理療法は一時的に症状を緩和する「対処療法」になるため、根本的な原因を解決する運動療法や手術が必要です。
装具療法
足の長さを調整するために、靴の踵を補高したり、インソールを作成したりすることもあります。左右の脚の長さや姿勢の調整、衝撃を吸収することが目的です。
手術療法
変形性股関節症を改善する手術療法として、当院で実施している主な方法を2つ紹介します。
- 低侵襲での人工股関節置換術(THA)
- 寛骨臼回転骨切り術
低侵襲での人工股関節置換術(THA)
股関節のすり減った軟骨と痛んだ骨を切除して、金属やポリエチレン、セラミックでできた人工関節に置き換える手術です。痛みの原因である損傷した軟骨を人工物に置き換えることで痛みがなくなり、歩行を楽にします。変形が少ない場合には、筋肉、関節包、靭帯を温存し、8~10cmの皮膚切開で人工関節を挿入する低侵襲手術で行います。
低侵襲で手術を行うことにより、以前よりも痛みの軽減や入院日数の短縮、早期社会復帰が期待できます。
手術後は、翌日からベッドの上で足を動かす運動、起き上がる運動を行い、歩行練習へと進んでいきます。
寛骨臼回転骨切り術(RAO)
寛骨臼回転骨切り術(RAO)は、主に臼蓋形成不全や初期の変形性股関節症に対して行われる手術です。
RAOはまず、太ももの外側を30cmほど切開し、臼蓋側の骨を手術用の特殊なノミなどでくり抜き、骨を引き出し回転させて屋根をつくります。
軟骨の損傷が少なく、骨の癒合の早い若い年代の方に適した手術方法です。切った骨がくっつくのに時間がかかるので、根気よくリハビリを行うことが重要になります。
手術療法を受ける前後の注意点
股関節の手術前後に注意すべき点は、以下の3つです。
- 体重の増加を防ぐ(BMI 25未満)
- 洋式の生活に切り替える
- 手術前に痛みがある場合は杖などを使用する
年齢や身体の状態、住環境などによって適切な方法は異なりますので、実際に手術を受けた方は、医師や担当のリハビリスタッフにご相談ください。
体重の増加を防ぐ(BMI 25未満)
股関節は体重を支える体の中心であり、体重増加は股関節に負担をかける要因になります。体重を増やさないように管理するため、炭水化物や脂質中心の食生活を見直し、食物繊維やビタミンを積極的に摂るように心がけましょう。
具体的には、BMI25未満※を目標に体重管理ができると効果的です。過度な減量は筋力の低下につながる恐れがあるため、痩せ過ぎにも注意しましょう。
※BMI=体重(kg)÷{身長(m)の2乗}
洋式の生活に切り替える
布団での寝起きや座卓での食事などの和式の生活は、股関節を深く曲げなければならないため股関節の負担が大きくなります。そのため、ベッドやテーブルなどを使った、洋式の生活に切り替えましょう。
入浴時も高さのあるシャワーチェアを使うと便利です。要介護認定を受けている方であればレンタルや低価格手の購入も可能なため、担当のケアマネジャーへ相談してみてください。
痛みがある場合は杖などを使用する
杖なしの歩行時には、股関節に体重の3〜5倍の負荷がかかるといわれています。そのため、手術前、股関節に痛みがある方は杖や歩行器を使用し、股関節の負担を減らすようにしましょう。
杖の場合、まっすぐ立った姿勢で股関節の下の出っ張り(大転子)に、杖の握り手の高さを合わせます。杖を握った時に肘が少し曲がるくらいで握れると、力が入りやすくてよいでしょう。
変形性股関節症について理解し、適切な治療を受けよう!
今回は変形性股関節症の症状や治療法、手術前後の注意点について解説しました。
股関節を構成する骨や関節軟骨に不具合が生じ、関節軟骨の減少や骨の変形を来す変形性股関節症は、症状が悪化すると日常生活に支障をきたしかねません。すでに症状が出てしまっている場合は、運動療法や物理療法、薬物療法などの保存療法から治療を始めます。
しかし、保存療法では症状の改善しないケースも存在するため、手術療法も選択肢として念頭に置いておくとよいでしょう。
はちや整形外科病院には2名の専門医が所属し、股関節手術は81件(2024年1−12月)の手術実績があります。手術療法によって症状の改善が見込める可能性もあるため、症状が気になる方はぜひ専門医に相談してみてください。