「歩いているとお尻や太ももが痛くなる」
歳を重ね、体力や筋力の衰えを感じ始めた方の中には、このような悩みを抱えている方がいるのではないでしょうか。
その症状がもし「脊柱管狭窄症」の場合、今後しびれや痛みが強くなり、今までのように歩けなくなってしまう恐れがあるため、早急な治療が必要です。
今回は、脊柱管狭窄症の原因となる疾患と症状、代表的な治療方法について解説していきます。
早期発見し適切な治療を受けるためにも、ぜひ最後まで内容をご覧ください。
脊柱管狭窄症の原因となる3つの疾患
脊柱管狭窄症とは、背骨にある管(脊柱管)の中を通る神経が、管が狭くなることで圧迫されて現れる神経症状の総称です。
骨や靭帯、椎間板の変形によって引き起こされ、しびれや痛み、重症化すると排尿障害なども見られる患者さんもいます。変形は加齢によって引き起こされる場合が多く、50歳以上の中高年で発症しやすいとされています。
脊柱管狭窄症は首の骨である「頚椎」または腰の骨である「腰椎」に見られる可能性が高い疾患です。また、次の3つの疾患が原因で脊柱管狭窄症を引き起こす場合があります。関連性が高い疾患のため、合わせて解説していきましょう。
1.椎間板ヘルニア
椎間板(ついかんばん)ヘルニアとは、骨と骨の間にある椎間板が飛び出し、神経を圧迫する疾患です。
起こりやすい年齢は20〜40歳と若年層であり、スポーツ好きや体格のいい人に多く見られます。
椎間板ヘルニアを発症する原因として挙げられるのは、背骨に負担がかかる動作を繰り返し行うという点です。例えば運送業など、重い荷物を日常的に上げ下げしているケースでは、椎間板ヘルニアを発症してしまう可能性が高まります。
その他にも加齢や喫煙歴などが発症する原因とされているため、当てはまる項目が多い方は、腰に負担がかかる動作はなるべく避けるようにしましょう。また、椎間板が飛び出してしまった状態を「椎間板の変性」といい、神経を圧迫することで脊柱管狭窄症を併発する恐れがあります。
2.脊椎すべり症
脊椎すべり症とは、椎間関節や椎間板の変性により、脊椎の配列がずれてしまう疾患です。脊椎すべり症は発症する原因によって「変性すべり症」と「分離すべり症」に分類されます。
変性すべり症 | ・起こりやすい年齢:40〜50歳 ・加齢による椎間板の変性が原因 |
分離すべり症 | ・起こりやすい年齢:10〜15歳 ・成長期にスポーツで腰に負担がかかることで発症しやすい |
変性すべり症は、加齢による椎間板の変性が原因で上に位置している背骨が不安定となり、ずれが生じてしまっている状態を指します。
腰痛を感じるケースは比較的少ないですが、長時間の立ち仕事や散歩により、お尻や太もも部分が痛くなる症状が特徴です。
一方、分離すべり症は子どもの頃に負った疲労骨折が原因とされています。スポーツをする中で背中をそらせる動作や、ジャンプ後の着地の衝撃で、背骨の一部にヒビが入ることがあります。
ヒビが入った当初は特に症状なく経過しますが、中高年になってヒビの箇所の分離が進み、腰痛や坐骨神経痛が生じてしまうのです。
3.脊椎側弯症
脊椎側弯症(そくわんしょう)とは、正面から見てまっすぐに配列している脊椎が、左右に曲がってしまう疾患です。
一時的に生じる側弯症もありますが、原因がわからないまま発症する「特発性側弯症」が60-70%ほどといわれています。
学童期や思春期の女児に発症しやすく、骨の変形により腰背部痛や心肺機能の低下が生じることがあります。骨の変形により脊柱管狭窄症を伴うケースもあり、その場合はお尻や太ももに痛みやしびれが見られるでしょう。
また、加齢に伴い椎間板や椎間関節が変性し左右に曲がる変性側弯症もあります。主な症状は腰や背部の痛みですが、症状が進行すると神経を圧迫し、下肢のしびれ、痛み、筋力低下などが起こり、日常生活に大きく影響する場合があります。
脊柱管狭窄症の症状とは
頸部や腰部など、脊柱管狭窄症を患っている部位によって、さまざまな症状が現れます。頸部脊柱管狭窄症であれば、首の痛みや腕・手などのしびれ、筋力低下、バランス能力の低下が特徴的です。一方で腰部脊柱管狭窄症は、足の痛みやしびれ、脱力、排尿障害などが見られます。
また、腰部脊柱管狭窄症の症状でもっとも特徴的なのが「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」です。
間欠性跛行は立つ・歩くなどの動作で痛みやしびれが現れ、さらに長距離を歩くことで症状が悪化し
す。
前かがみになって休憩をすると痛みが和らぎますが、歩き始めて少し経過すると再び痛みが現れるのが特徴です。症状を放っておくと足の運動機能低下につながり、フレイルやロコモティブシンドロームといった合併症を引き起こしてしまいます。
日常生活に支障をきたす可能性があるため、痛みやしびれが気になる方は早急に整形外科を受診しましょう。
脊柱管狭窄症の代表的な2つの治療方法
脊柱管狭窄症の代表的な治療方法として、以下の2つが挙げられます。
- 保存療法
- 手術療法
第一選択は薬やリハビリテーションなどの保存療法ですが、症状が進行している場合は手術療法も検討する必要があるでしょう。
以下では2つの治療方法について解説していきます。
1.保存療法
保存療法とは、日常的に症状の改善や緩和を目指す手術以外の方法です。薬物療法や運動療法、生活習慣の改善指導などが当てはまります。
脊柱管狭窄症の治療においては、保存療法が行われるケースが大半です。
「腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン 2021」でも、脊柱管狭窄症の治療には薬物療法を行うことを強く推奨しています。
また、理学療法士の指導した運動療法と併用して行うことで、痛みやしびれ、生活機能、生活の質の改善につながるとも言われています。
普段使っているイスを変更して姿勢の改善を行いつつ、腰部のストレッチや体幹部の筋トレなどを生活に取り入れると、痛みやしびれの改善が期待できるでしょう。
ただし、ストレッチや運動の種類によっては症状を悪化させる場合もあります。適切な方法を把握し、症状を和らげるためにも以下の記事もご確認ください。
脊柱管狭窄症の治療にストレッチは有効?注意点とおすすめの方法を紹介
2.手術療法
保存療法で症状の改善が見込めない場合、手術療法を行うことがあります。すでに運動障害や排尿障害が出ている、強い痛みで生活に支障が出ている場合などが当てはまります。
手術の方法は顕微鏡や内視鏡を用いて骨や靭帯を取り除き、狭くなった脊柱管を広げる方法です。
代表的な手術療法と特徴を表にまとめました。
手術の種類 | 麻酔 | 入院日数(1椎間手術の場合の目安) | 保険適用 |
内視鏡下手術(MEL) | 全身麻酔 | 4泊5日 | あり |
顕微鏡下手術(SCD) | 全身麻酔 | 4泊5日 | あり |
脊椎固定術(MIS-TLIF/PLIF/XLIF/OLIF) | 全身麻酔 | 14日程度 | あり |
また昨今では、新たな治療法として椎間板酵素注入療法が保険適用となり、注目を集めています。注射で薬剤を椎間板内に投与することにより、痛みや痺れの改善が期待できるでしょう。
脊柱管狭窄症は予防や対策できる?
脊柱管狭窄症を発症する原因は明確になっていないため、「これを行えば確実に予防できる」といったものは存在しません。
加齢による骨や靭帯、椎間板の変性が原因とされており、誰でもなりえる疾患といえるでしょう。
一方で、喫煙が発症原因となる可能性が示唆されており、有効な対策としては禁煙が挙げられます。
また、靭帯の変性を防ぐには腰部のストレッチが有効であるため、定期的にストレッチを実施するとよいでしょう。
しかし、適切でない対策を行うと脊柱管狭窄症の症状を悪化させる恐れがあります。もしお尻や太もものしびれを自覚して不安を感じている方は、早めに整形外科を受診しましょう。
脊柱管狭窄症の原因を把握して、適切な治療を行おう
今回は脊柱管狭窄症の原因となる疾患と症状、代表的な治療方法について解説していきました。
骨や靭帯、椎間板の変性によって生じる脊柱管狭窄症は、放置してしまうと生活に支障をきたす症状が現れます。
特に原因となる疾患を患っている方は、症状を悪化させないよう薬物療法や運動療法などの保存療法を積極的に行っていきましょう。
保存療法では治療が難しい場合、手術療法を選択するのも一つの手段です。医師と相談し、自身にあった適切な治療法を見つけていきましょう。
はちや整形外科には5名の脊椎医師(非常勤含む)が所属し、脊柱管狭窄症に対しては221件(2023年1-12月)の手術実績があります。
手術をすることで症状の改善が見込める可能性もありますので、症状が気になる方はぜひ受診してみてください。