脊椎圧迫骨折は高齢者や骨粗しょう症を患う人々に多く見られる疾患です。腰や背中の痛みは日常生活への影響が大きく、早期改善するためには適切な治療と予防が重要です。この記事では、脊椎圧迫骨折の症状や原因、治療法について詳しく解説します。
なお、「はちや整形外科病院」では、腰部疾患をはじめ年間1,000件以上の手術を行っています。紹介やセカンドオピニオンが必要な場合は、ぜひお気軽にご連絡ください。
はちや整形外科の詳細はこちら
脊椎圧迫骨折とは
脊椎圧迫骨折とは、背骨が押しつぶされるように変形してしまう骨折です。
人間の背骨は、24個のちいさな骨(椎体)で構成されており、体の重みをバランスよく支えています。骨粗しょう症が進行すると、骨密度が低下し、骨の内部がスカスカでもろくなってしまうため、尻もちをつくことはもちろん、くしゃみをしたり、不用意に重いものを持ち上げたりといった、小さなことがきっかけで椎体がつぶれてしまうことがあります。
骨密度の低下がさらに進行すると、次の骨折が発生しやすくなります。
脊椎圧迫骨折の症状
脊椎圧迫骨折の症状は個人によって異なりますが、主に以下のようなものが挙げられます。
急性期 | 突然の背中や腰の激しい痛み。日常の動作(前屈や持ち上げ動作など)で悪化することが多い。 |
慢性期 | 姿勢が前かがみになりやすい。骨折した箇所の変形によって身長が低くなる。 |
圧迫骨折の主な症状は腰や背中の痛みです。特に発症時や急性期には、腰や背中に激しい痛みが現れ、身動きが取れなくなってしまうケースもあります。
また、複数箇所で骨折が起こると、胸郭や腹部が圧迫されることで呼吸困難や内臓への影響を引き起こす場合もあります。
脊椎圧迫骨折の原因
脊椎圧迫骨折は、主に以下の3つの原因によって引き起こされます。
- 転倒
- 骨粗しょう症
- 骨の腫瘍
転倒
転倒は高齢者が脊椎圧迫骨折を引き起こす最も一般的な原因のひとつです。転倒によって胸椎・腰椎(背骨)に大きな衝撃が加わり、圧迫骨折を引き起こします。
特に自宅内で滑って転ぶ、階段から落下するなどが圧迫骨折につながります。高齢者の場合は、椅子に勢いよく座ったり、尻もちをついたりしたときに、痛みとともに発症するケースが多いです。
転倒を予防するためには、手すりの設置などで住環境を整備したり、日常的な運動による筋力・バランスの訓練が推奨されます。
骨粗しょう症
骨粗しょう症とは、骨がスカスカになり、徐々にもろくなって骨折を起こしやすくなる病気です。
加齢、生活習慣(運動不足、食生活、喫煙など)、また女性の場合には、閉経後のホルモンバランスの変化などが原因としてあげられます。
骨がスカスカになると、背中や腰の痛み、背骨が曲がる、身長が縮むといった症状が現れはじめます。さらに症状が進行すると、骨密度の低下によって骨折を起こしやすくなります。
骨の腫瘍
稀に、骨の腫瘍が脊椎圧迫骨折を引き起こすこともあります。腫瘍が骨を侵食すると骨がもろくなり、軽い衝撃でも折れやすくなる可能性が高いです。その結果、椅子に座ったり、物を持ち上げたりしたときの衝撃で、圧迫骨折を発症します。
腫瘍による骨折のリスクは、腫瘍がどれだけ骨にダメージを与えているかによって異なります。腫瘍性疾患が疑われる場合には、早めに専門医へ相談しましょう。
脊椎圧迫骨折の検査・診断
脊椎圧迫骨折の診断には、主に画像検査を用いるのが一般的です。
患者さんの症状や病歴を確認した後、X線撮影やMRI、CTスキャンなどを行って診断します。
X線では骨折の有無を確認できますが、MRIでは炎症の有無で骨折が新しいものか古いものかを判断でき、骨折部分の変形が少ない場合でも骨折の確認をすることができます。
左:X線(レントゲン)、右:MRI
転倒による外傷を伴うケースや、急性期の痛みが出ている場合は、圧迫骨折を疑いMRIを撮ることが多いです。
脊椎圧迫骨折の治療法
脊椎圧迫骨折の治療は、以下のようなものが挙げられます。
- 保存療法
- 手術療法
- 骨粗しょう症の予防
- リハビリテーション
どのような治療を行うか判断するには、医学的な専門知識が必要です。自己判断せずに、必ず医師や専門家の判断を仰ぎましょう。
保存療法
保存療法は、骨折が比較的軽度で、神経症状がない場合に選択される治療法です。治療の基本は、安静により骨折部位を安定させ、自然治癒を促進します。
具体的には、コルセットなどを用いて身体(背骨)を固定。お辞儀や腰をひねるなど、骨に負担のかかる動きは避けるようにします。
また、痛みが強い場合、鎮痛剤などの内服による治療も行います。安静期間は骨の状態により判断されるため、必ず医師の指示を仰ぎましょう。
手術療法
骨折部の不安定性が強い場合や、保存療法では症状の改善が見込めない場合、手術が必要になることもあります。
脊椎圧迫骨折に対する手術では、主に以下の方法が用いられます。
手術方法 | 詳細 |
椎体形成術 | 潰れた背骨にセメントなどを入れて元の高さに戻す |
脊椎固定術 | 不安定性のある椎体の上下をボルトなどで固定する |
骨折の重症度や骨の状態(骨密度など)によって適切な手術法は異なります。治療方法の詳細につきましては、医師までおたずねください。
はちや整形外科病院では、圧迫骨折を始め「脊椎」に対する手術を年間500件以上行っており、学会や講演などの実績も豊富にあります。
はちや整形外科病院の手術実績や学術実績についてはこちらからご覧ください。
内部リンク:手術実績
骨粗しょう症の予防
圧迫骨折の治療では、手術をした椎体の上下椎体が骨折しやすくなることがあります。圧迫骨折を繰り返さないよう、骨粗しょう症の予防的な治療も並行して行います。
骨粗しょう症の予防・治療は、主に投薬と生活習慣の改善です。具体的には以下のような内容が挙げられます。
- カルシウム、ビタミンD・K、タンパク質を含む食品を摂取する(牛乳や納豆、魚など)
- 散歩や片足立ち運動、日光浴をする(骨に重力をかける)
- 杖や補助具を使って転倒予防する
- お酒やタバコを控える
また、骨粗しょう症に対しては、薬を使った治療も重要です。骨粗しょう症を治療する薬は、飲み薬(BP薬など)や注射薬(テリボンなど)があり、患者さんの骨密度やライフスタイルによって選択されます。
リハビリテーション
脊椎圧迫骨折に対しては、疼痛の悪化や安静による機能低下予防を目的に、リハビリテーションも実施します。
急性期は疼痛管理を目的に動作指導、骨折部が安定したら、筋力強化や転倒予防を行うのが一般的です。理学療法士の指導のもと、筋力や姿勢の改善を目的としたエクササイズを行います。
安静によって筋力が落ちたり、関節が硬くなったりする(廃用症候群)と、日常生活に支障をきたします。そのため、リハビリテーションは、圧迫骨折後に行う重要な治療のひとつです。
【脊椎圧迫骨折の手術】経皮的椎体形成術
バルーン・カイフォプラスティー(BKP・経皮的椎体形成術)は、1990年代にアメリカで開発された脊椎圧迫骨折に対する治療法です。
世界で80万件以上の症例経験があり、日本国内では、国内臨床治験を行い、その安全性と有効性が確認され、2010年2月に厚生労働省の承認を得ました。また、2011年1月より保険適応が認められています。BKPは、脊椎圧迫骨折によってつぶれてしまった椎体を、バルーン(風船)状の手術器具や医療用の骨セメントを使用し、骨折前の形に近づけて痛みをやわらげます。
短時間(手術時間のみでは20分程度)で、早期に痛みの軽減が行え、生活の質(QOL)の向上も期待できる新しい治療法になります。
BKPの手術方法
全身麻酔をして行います。ベッドにうつぶせに寝た状態で、背中を2ヶ所(1cm程度)切開し、手術にはレントゲンの透視装置を使用します。
最大のメリットは、手術の傷が1cm程度と小さく、また手術時間が20分程度で終了することです。手術後の痛みが少なく、筋肉へのダメージを最小限にとどめるため、早期退院、早期社会復帰が可能となります。
BKPは、専門のトレーニングを受けた医師が手術を行いますが、ほかの手術と同様、患者さんの状態により、手術を受けることによる合併症や骨セメントを使用することにより発生するリスクなどがあります。詳しくは医師までご相談ください。